絵画作家 上原一馬 ウェブサイト

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updated 2024-05-05
 


2011.12.17

中村宗男

中村宗男



中村宗男さんは、国展の最近の一般受賞者の最も力がある作家だと思う。


剥がれた壁のような質感の背景に、女性が登場する。
女性は、クールであるが、はかない感じもする。


画面の質感と描画とのバランスが絶妙だ。
普通ならこんなに人物を描いたら、背景と人物が別物のように分離してしまうだろう。


しかし、人物の中にも、背景の質感を残しつつ、
特に、「キワ」の処理がうまく、背景と人物が自然に調和している。
わざと雑に輪郭を処理するのである。


質感の作り方、落ち着いた色彩、そして人物などの描写力。
どれをとっても、優れている。


少し会話を交わしたことがあるが、
もっと若い作家だと思っていたので、意外だった。


2011.11.26

磯江毅

磯江毅



「磯江毅=グスタボ・イソエ〜マドリード・リアリズムの異才〜」を観に行く。


絵を食い入るように観る、というのは久々のことだった。
一点一点とにかくずっと観ていたい、そんな気持ちだった。
見飽きないのだ。


「うまい」というレベルではない。
確かに「うまい」のはもちろんのこと、
絵にはぐいっと胸ぐらをつかんでくる「何か」がある。


それが、物のはかなさに対する哀愁なのか、
物を見つめる画家の熱意を通り越した描く行為の中に、
物は確かにそこに在る。


2011.10.29

大槻香奈

大槻香奈
大槻香奈



大槻香奈 は、きっと次世代の作家だと思う。


「イラストレーション」だとか、「絵画」だとかいう概念は彼女にはない。
イラストを描くように絵を描き、絵を描くようにイラストを描く。
画家のように個展を開き、イラストレーターのように注文された絵を描く。
彼女の作品や活動を見ているとあえて分類したり、作家活動に違いがあること自体、どれほど無意味かと思えてくる。


ノートの片隅に落書きしたり、なんでも紙があれば絵を描いてしまうほど、絵が好き。
すばらしい作品を見れば、教科書の作品でも、アニメーションでも感動する。
そんな女の子は、きっとたくさんいるのかもしれないが、
絵が好きで美大に行ったはずなのに、とたんに絵がつまらなくなる。


「美術」という枠、「絵画」「油絵」という枠にいつの間にかはまってしまい、
ノートに描いていたような純粋な感覚は失われ、
「これが美術作品です」というような作品に変わってしまう。
イラストレーションの道を歩んでも同じこと。


しかし、大槻香奈はそんな魔の手を、するりをくぐり抜けてきた。
イラストレーションの表現形式をさらりと身につけ、
かといってはまり込むこともなく、
どんどん自分の等身大の世界を描き出し、
絵画技法もすべて、彼女の表現の幅を広げる道具となってしまった。


彼女は点在する技術をあっと言う間に吸い込み、
感性のフィルターを通して、必要とするものだけを選んで使う。
捕われず、自由に泳いでゆく。


これから 大槻香奈は、 すべての垣根を越えた作家になっていくだろう。


2011.09.30

赤枝真一

赤枝真一



赤枝真一 さん の絵は、魅力的だ。


この絵の不思議な魅力ななんだろう。
つい引き込まれてしまう。


普通の男子学生の下宿屋がていねいに描き込まれている。
CDの一枚一枚や、ドアの汚れ。
センスなく整った本当に普通すぎる部屋だ。


モチーフとして魅力を感じる作家は少なそうな風景だ。
よくぞこれをここまで描いたという感想。


そこに登場する、女性の頼りなさは何だろう。
制服と下宿屋のギャップがこの頼りなさを際立てる。


コンビニ弁当に新聞という組み合わせもまた、情けなさすぎる。
手に取った旧式テレビのリモコンも、やることがない退屈なこの部屋の空虚さを助長する。


部屋に置かれた人形は、制服の女性が幾度となく部屋を訪れていることを伺わせる。
この女性とここにはいない男性のアンバランスな関係にも興味が湧く。


数度しかお会いしたことがないが、いわゆる「イケメン」。
女性には苦労しなさそうな作家が、なぜのような絵をコツコツていねいに描くのか。


この前個展に訪れた時は、赤枝さんはデジタルではない、レトロなカメラを持っていた。
派手ではなくきれいに整った髪と服と、そのカメラのギャップが印象的だった。


律儀に手書きの手紙が届く。
スローで ていねいな仕事をする方なのだと思う。


10月に茨城県牛久市で、1月に銀座で個展が開かれる。


2011.08.15

ワカマツカオリ

ワカマツカオリ



ワカマツカオリ の画集を買う。


とにかくいい画集だ。


輪郭線の切れは、まさに自分好み。
にくいほど渋いグレイッシュな色合いもすばらしい。


知り合いに頼んで買ってきてもらったが、
渋谷の個展は30分待ちだったとのこと。


画集も初版は8月発売でもう売れ切れといううわさ。


彼女の今の人気ぶりが分かる。


この画集には、さらににくい仕掛けが。
表紙をめくると、表紙の絵の鉛筆の下書きが出てくる。
制作の過程が随所に盛り込まれているのだ。


最近では一番ヒットの画集だった。


2011.07.31

諏訪敦 どうせなにもみえない

諏訪敦



諏訪敦 の作品展を見に行く。
彼は、若手の代表的なリアリズムの作家だ。


掲載している画像の作品に魅かれた。


モデルは若くして亡くなられた方だという。
彼女は海外で仕事をしていた。
20代後半で婚約者もいて、数日後には結婚式だったという。


まさに、女性として最も美しく輝いていたその時、
悲劇が彼女を襲う。
最期の海外勤務先での仕事中、飲酒運転の車にひかれ、命を失う。


両親の悲しみは量り知れないものだったと思うが、
諏訪敦に、この娘の肖像画を依頼する。


諏訪敦は、写真と動画、事故当日に彼女が身につけていたブラウスと時計をもとに、描き始める。
腕のイメージを再現するため、義手の作成まで行う。


手を伸ばせば触れられそうな存在感だ。
彼女は確かに「居る」。
この作品は、冷たいオーラに包まれている感じがした。


作家は、ここにはない大切なものを描こうとし、永遠のものにしようとしている。


2011.06.25

eri

eri



eri という 同じ長野県に住む 作家がいる。


彼女はイラストレーターだ。


彼女は水彩をメインに描いているが、アクリルで描く絵がいい。
「12ヶ月シリーズ」と名付けられた一連の絵画は、長野県松本文化会館のパンフレットにも採用されている。


季節の花に溶け込んだ女性像は、
さわやかで、心情豊かな表情をしている。


時の移ろいの中で、誰もが感じていた時々の思いがこの絵の中にはある。
きっと誰もがノスタルジックな印象を受けるだろう。


女性ならではの感性でまとめられた絵画空間。
男性ではこうは描けないだろう。


彼女の絵には、技巧的はものがない。
ゆえに純粋で、魅かれるものがある。


2011.05.03

国展(第85回 2011年)

篠原愛

清水恭平「あの頃は」


昨年に引き続き、最高賞である国画賞を受賞した作品。
まだ学生が描いた作品だ。


優れた描写力。明らかに他とは一線を画す実力のある作家である。
光と影の表現の巧みさも学生とは思えない。


内容は私的であるが、どこか共感の持てるものがある。
一途でひたむきで正直な、本当にいい作品だと思う。


とにかく 活躍を 期待したい作家だ。


篠原愛

角南友繁「Ground」


国展の作品群の中で、この一点は他とは空気が違っていた。
「ふわっ」と抜けたような安らかさがあった。


部屋に飾りたい、そう思わせる絵だった。


作家達は自分の内面の負の部分を描きたがるが、多くの鑑賞者はそれを求めていない。
休日に流しておきたい 音楽と同じように、 なんとなく飾りたい絵というものがある。
この作家の絵は現代人の求める空気感がある。


篠原愛

外澤功「くう 弐」


この絵の評価は実はいまいちだった。
「なぜ?いい絵なのに…」と思った。


イラストレーションに近くなると、とたんに評価が下がってしまうことがあるが、
このような絵を求めている若者は多いのではないか。


日本は疑いなく世界に誇るアニメーション・漫画大国で、貴重な文化資源である。
中高生の嗜好は完全にこちら側である。


この絵は、絵画とその新しい日本文化とを融合したような、万人に受け入れられる素質を持っている。
国展は、この素質が去ってしまう前に、支援しなければいけないのではないか、とさえ思ってしまった。


展示されていない絵も全部良かった。
片隅に追いやられてしまう絵であっても、とにかく応援したい。


2011.04.16

篠原愛

篠原愛



篠原愛 の絵はすごい。


一気に絵の中に引き込まれ、彼女のストーリーを読み解こうと空間の中を旅してしまう。


少女の像は美しく、はかない。
サディスティックに破られる肌は痛々しいが、少女の進む道の危うさを物語るようだ。


彼女の感じてきた感覚は、多くの少女達が漠然と感じているもので、本当のことなのだろう。


描写はリアルに、とことん緻密に描かれている。
職人的訓練に耐えてきた作家だ。


きっと中高生がこんな絵が描きたいと思い、あきらめた絵だろう。
その描きたかった頃の最初の感覚持ち続け、ずっと描き続けているのが、篠原愛だ。


篠原愛にはもっと有名になってほしい。きっと多くの若者が「すごい」と思うはずだから。


2011.03.30

日野之彦


日野之彦


日野之彦



日野之彦 -そこにあるもの』(上野の森美術館ギャラリー)を観に行った。


今回の個展は、日本の現代美術の最先端のコンクール『VOCA2011』との同時開催。
同じ時期に第一生命ギャラリーでも『 日野之彦 -春の人』という個展をやっている。


彼は様々なコンクールの大賞を総なめにし、
海外での個展を成功させるなど、現在第一線を走る絵画作家。
昨年からは多摩美術大学の教官に抜擢されている。


近年の作品はギョロリとした目が特徴になっている。
表情やスタイルに特徴はあるものの、描き方はオーソドックス。


今回は、彼の作品の魅力を間近で感じることができればと思っていた。
写真家・鷹野隆大氏とのトークショーもあるというので、楽しみにしていた。


制作過程の重要な点も語る場面もあった。


クロッキーによる構図を作るのが先で、
モデルのスタイルはそれに合わせてとってもらうのだという。
色面を具体的なものに代えて描いていくというか。


モチーフの描画による空間の作り方にもこだわっているとか。
輪郭線の出し方は、手前は強く、奥は弱く。
学生時代に安井曾太郎のデッサンを見て気づいたのだという。


さらに補色を使った構成をし、
彩度の強さで(手前は強く、奥は弱く)空間を出すのだという。


すごく奇抜に見える彼の作品にも、
緻密で古典的とも言えるこだわりがあることを知り、
作家としての姿勢にあらためて感激した。


日野くんとはちなみに筑波大学時代の同期。
3番目の写真は日野くんが大学4年の時に描いていたもの。
今やレア画像だ。


2011.02.20

ワカマツカオリ





私の好きなイラストレーター、 ワカマツカオリ


とにかくスタイリッシュでかっこいい。
「今を生きる若者」の絵だ。


強弱のメリハリのきいた輪郭線。
とにかくこの輪郭線のキレがいい。
爽快なイラストレーションだ。


ポストカードが全国の雑貨店で販売されている。
見たことがある人も多いだろう。


最近ではモバイルゲームの「怪盗ロワイヤル」のキャラクターデザインを担当し、
TVコマーシャルに出た。
それなら知っている、という人は多いだろう。


多方面のファンを取込んで、彼女はまだ進化し続けている。


上の絵は、鳥を入れた風の雰囲気と、セピアの色調に惚れた。


2011.01.18

原崇浩






グループ展をやっていると、会場に 原崇浩 さんが来た。
明日から個展のための準備開始の時間まで、銀座で時間を過しているのだという。


原さんは画家だ。
絵だけで生活している数少ない人だ。


初めてお話したのだが、とても正直な人だった。
気取ったところがない。
自分のペースでゆっくりと話す。
「お金がない」と正直にいう。


今は、京都の画廊に月々、制作費をもらって生活しているのだという。
そんな、画家を育てようと援助をしてくれる画廊があるのか、と驚いた。
今回の個展もその画廊つながりなのだという。


原さんは、自分が国展に出品し始めた頃、すごかった。
大きなコンクールでいくつか大賞をとった。
かっこいいと思った。
自分が国展に出したいと思ったのも、原さんの影響は強い。


原さんは国展に所属していたが、2年前に脱会。
自分にとってはショックなできごとだった。
その辺りの正直な話も聞けて良かった。


今の絵も好きだ。
前のような毒や刺激はないが、いいと思う。
生活するために絵を描いているのだから、変わるのも当たり前だ。


1時間以上も画廊に滞在し、話をしてくれた。
原さんには若い画家達がめざす、「職業・画家」のモデルになってもらいたい。