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updated 2024-05-05

上原一馬 2022年のブログ
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2022.12.17

巡りゆく 遠藤彰子展

 

 
『巡りゆく 遠藤彰子展』を観に、長野県の上田市サントミューゼへ。
 
遠藤先生の作品が、地元で一堂に会するということで、初日に足を運んだ。
 
作品は、会場に入った瞬間から圧巻。
500号大の巨大な作品が並ぶ。
壮大なスケールの作品は、時を超えた普遍的な生命の営みが描かれ、神秘的な雰囲気に包まれていた。
 
四方を囲まれると、息をのむ迫力だ。
 
感じるものは、世界に飲み込まれながら、不安を抱えながらも、懸命に生きてゆく母と子たちのひたむきさ。
すさまじい情熱だ。
 
描き込みもハンパではない。ものすごいスピードで幾層にも塗り重ねられている。
 
描いているものの数もすごい。
最小の動物は?と思い探していくと、大画面なのに、すごく小さなものまでいる。
 
なんと偶然にも遠藤先生本人にお会いできて、お話させていただいた。
 
「細い筆でほとんど描くというのと観たんですけど。」
テレビで観たことを聞いてみた。
「すごく消耗が激しいの。数日でダメになってしまうこともあるんですよ。」
とてもていねいにお話してくださった。
 
「この作品は、子育てをしていたころの作品で、一日一部屋ずつ描こうと決めて描いていたのよ。」
どんな状況でも、工夫して描き続けてきた遠藤先生の姿勢がうかがえる印象的な言葉だった。
 
最後に、
「一緒に写真でも撮りましょ。」
と、サービス精神旺盛な遠藤先生らしい、取り計らいをしていただいた。
 
家に帰り、250号の自分の作品を見てみる。
「あれ?意外と小さいな」
どこまでも大きな作品が描けそうな錯覚に陥った。

 

2022.11.26

阿部千鶴 花と少女

 

 
一枚の絵画に、心が癒されることがある。
その絵が、阿部千鶴の日本画だ。
 
幻想空間いっぱいに咲く花。
そこに呆然と埋もれる少女たち。
 
重厚な重たさはなく、
まるで絵本の世界に入り込んだよう。
 
平面化され単純化された、植物や人物たちだが、
ていねいに美しく塗り重ねられている。
 
彼女の絵を見たとたん、
まるで絵本のストーリーの中に引き込まれていくような感覚を覚える。
 
少女が迷い込んだ、美しくも危うい森。
好奇心で探検していくが、奥に行きすぎるともう戻っては来れない。
 
彼女の癒しの絵の中には、そんな不思議な永遠の森への憧れも含まれているのだ。
 
1月には佐藤美術館での個展も予定されている。
今後も阿部千鶴の絵が楽しみだ。

 

2022.10.22

線は僕を描く

 

 
映画 「線は僕を描く」が公開になった。
 
小説を読み、感動してしまった。
ただの感動ではない。
今までの自分から生まれ変わるような感動。
 
もし、あなたが制作に携わる人ならば、どの作品よりも先に読んでほしい作品だ。
 
主人公は身内を亡くし、からっぽの感情で過ごす大学生。
たまたま美術館のアルバイトで見た水墨画に心動かされ、画壇への道を歩んでいく。
 
描くことで、彼は自分自身を取り戻していく。
生きる意味を見出していく。
 
作品の中に湖山先生という大家が出てくるのだが、
この先生の言葉がすごい。
 
「挑戦と失敗を繰り返して楽しさを生んでいくのが、描くということだ。
いま君が経験したのは、天才が絵を描いたときに感じる感覚だよ。」
 
千瑛という卓越した技術を持つ、湖山の娘も出てくるのだが、
いま一歩。展覧会では最高賞を取ることができない。
 
「技術は技を盗み、描き続ければ上がっていく。しかし、それは技を伝えてくれた誰かとのつながりであって、自然とのつながりではない。」
 
そして、湖山先生は言う。
「命を見なさい。形ではなく、命を見なさい。」
 
こうして二人の若者は「何か」をつかんでいく。
 
「描くこと」が「生きること」につながるということを、この作品は伝えてくれる。

 

2022.09.25

山口啓介 クールな原初衝動

 
山口啓介

 
山口啓介

 
国展の上條喜美子さんと浜福子さんとともに展覧会DM作成のため、諏訪のオノウエ印刷を訪れた。
 
案内された応接室で、30分程度で打ち合わせを終える。
 
応接室には、オノウエ印刷が手がけたという、写真集や画集が並んでいた。
その中にふと、心ひかれる本を発見した。
 
「山口啓介画集」。
しばらく3人で、感嘆符をつけながら見入ってしまった。
その様子を見てオノウエさんも、この本の作りのこだわりを教えてくださった。
 
その後、カフェで3人で談話し時も、山口啓介のことが話題に。
私は影響を受けた作家の一人だったが、2人は初めて知るそうだ。
痛く気にいってくれた。
 
数日後、自宅に本が届く。
上條喜美子さんが、注文ついでに「日ごろのお礼に」と私の分も買ってくれたのだ。
 
すぐさま開封して見てみたが、やはりいい。
 
初期の、船の銅版画。
そして私が好きな、植物を樹脂に閉じ込めるシリーズ。
その後、プリミティブなアクリル画へと移る。
20年以上現代美術のトップランナーとして走り続けた山口啓介の作品はどれもいい。
 
1995-2000ごろの、植物の白黒画像を画面いっぱいに印刷し、その上に飴色の樹脂を流す手法は、
尊いものを、とても乱暴にではあるが、愛おしく閉じ込めるかのようだ。
私の肌感覚をくすぐり、この作品の虜になってしまった。
 
久々の山口啓介との出会い。
やはり多くのことを私に伝えてくれた。

 

2022.08.01

漆原さくら 信州の食べ物絵師

 
漆原さくら

 
杉山日向子

 
漆原さくら
 

「トライアル・ギャラリー2022」を観に、長野県伊那文化会館へ。
今日は、かつて美術指導をしたこともある、漆原さくらの作品が見れた。
 
大学の途中から、展示用の美術作品から離れ、「食べ物絵師」としての活動をしている。
本やデザインが好きな、彼女らしい選択だ。
 
岩絵具で描かれた大作から、水彩で描かれた挿絵、
あずま屋の中には、彼女が制作してきたオリジナルの本が展示されていた。
 
一点一点に、彼女が魅かれたものたちが、愛情を込めてていねいに描かれている。
食べ物の一つ一つがじつに、魅力的に輝いて見える。
感性による観察の生んだ、味わい深いじんわりとくる作風だ。
 
芸術とかいう難しいものではない。
とにかく自分がいいと思ったものを、飾らずに素直に描き上げているのだ。
 
漆原さくらはサービス精神も旺盛だ。
観に来てくれた来場者には、とことん作品を楽しんでもらえるように考える。
 
「信州食べ物すごろく」は、子ども目線を大切にしたワークショップだ。
参加型の鑑賞で、作品の楽しさを伝えている。
 
彼女は、もんぺ姿で現れ、今日も一生懸命解説をしてくれた。
 
「食べ物絵師」漆原さくらは、気取らず、ニコニコとひたむきに、愛らしい食べ物たちを今日も描き続けている。


 

2022.07.23

上原一馬 Dreams on the Tablet〈華と毒〉

 
上原一馬
 

国展の作品が名古屋展、福岡展を終えて帰ってきた。
 
Dreams on the Tabket〈華と毒〉
 
コロナ禍で人々は分断された。
自分は、孤独に部屋で過ごすことが多くなった。
人々はマスクをつけ、歩き通り過ぎて行く。
交流は悪となった。
 
私の地元にある新幹線の駅を背景に描いた。
この駅は、大きな口を開けて人々を飲み込み、どこへでも連れて行ってくれた。
しかし、この2年、その入口には入ることすらなくなった。
入口の前で立ち尽くした人物に、自分を投影して表現した。
 
代わりにタブレットPCが、自分と世界とつなぐツールとなった。
タブレットは、世界中のどこへでもきらびやかな世界に連れて行ってくれる。
そんな様子を、タブレットからあふれ出す花で表現した。
しかし、美しいユリ科の花は、下部に行くと猛毒の花に変わる。
それは華か毒か、正体すら分からない。
 
タブレット上の世界とは自分にとって何なのか。
本当の世界とは一体何なのか。
 
そんなことを思い、描いた作品だ。


 

2022.06.12

杉山日向子 あいまいな日常

 
杉山日向子
 

たまたま、リーフレットで見かけた絵に目を奪われた。
杉山日向子という、藝大生の作品らしい。
 
ん?目の焦点が合わなくなったかな?と思ったら、こういう絵なのだということが分かった。
 
実に何気ない人物像だ。
しかし、内面をえぐるような表現力。
 
胸のあたりの描写はまだ未完成のような筆のタッチだ。
 
顔の瞳や口元はリアルに描かれ、強烈な化粧のリップの塗りだ。
撮影者を受け入れながらも、拒絶するような表情。
 
夜に撮影された写真をもとにしているのか、暗闇でライトを当てたような光源になっている。
 
日中の日常生活から隔離されたような、若者の夜の日常風景。
その輪郭は実にあいまいだ。
 
そう、あいまいな現実が、そこに描かれている。


 

2022.05.03

第96回 国展 注目の作家は

 
コロナの影響で、2年ぶりの開催となった国展。
この間に、勢いが弱まっているのでは?という心配はしていたが、コロナ前の雰囲気を維持していて、変わらぬ新しい息吹を感じた。
そんな久々の国展で、注目した作家の作品たちだ。
 
高橋梨紗
 
高橋梨紗「やさしいせかいの続き」
 
なんという自由な抽象画だろう。
あふれる色彩と、踊るような形態。
感情と直結したような、迷いのない画面だ。
楽しい。しかし、憂鬱さを感じる不思議な絵だ。
 
 
田中節子
 
田中節子「水中ソーイングⅣ」
 
明るく楽しい絵だ。
形態は軽やかで、自由な気持ちにさせてくれる。
色も、なんというかナチュラルで、鮮やかで居心地がいい。
会場をパッと照らしてくれるような、いい作品だった。
 
 
西野水穂
 
西野水穂「no face」
 

会場は何度か巡ったが、脳にこびりついて離れない作品だった。
大根のような、ナスのような人物が向かい合わせになって、くっついている。顔はお互いに溶け合っている。
メッセージは不明だ。
しかし、このシンプルで軽やかな作品に、ユーモアと狂気が詰まっている。
このくらい絵はシンプルな方がいいのではないか、と思ってしまう。
なんとも不思議な気持ちにさせられた作品だ。


 

2022.04.30

アルフォンス・ミュシャ ー煌きの女神たちー

 
ミュシャ

 
「アルフォンス・ミュシャ ー煌めきの女神たちー」を観に、長野県上田市のサントミューゼへ。

 
まず、このような展覧会を地元で観ることができるとは思わなかった。上田市立美術館の学芸員の方の苦労は、相当なものだったのだろう。
 
ミュシャの絵は、観るたびに驚きがある。
 
まずは、挿絵やポスターなど、ミュシャの代表作となるものが並んでいた。
どれも美しい。
もしミュシャの時代に自分が生きていて、このポスターを見たら何を感じただろう。
たぶん、何とかしてこのポスターを手に入れたいと、考えたと思う。
舞台を宣伝するそのポスターは、とにかく美しかった。
 
今回、自分が感動してしまったのは、ミュシャの線画だ。
線が生きている。今のデッサンの法則では描かれていない。
生き物のように形をなぞり、人物に生命感を与えている。
 
この展覧会は、撮影OKとのことだったので、食い入るようにして見てしまった絵を、自分のスマホのフォルダに入れることができた。
 
どんな表現の仕方をしても、華があり、洗練された美を感じる。
本物の芸術家とは、ミュシャのような人なのだと思った。
何年かかっても、ミュシャの技術力には到底及ばない気がした。


 

2022.03.05

ロナウド・ヴェンチューラ展ー内省

 
OKA学園

 
ロナウド・ヴェンチューラ展を観に、軽井沢ニューアートミュージアムへ。
 
この美術館は地元でありながら、初めて足を運んだ。
入った瞬間から、現代美術の香りがする。
著名作家から新鋭まで、「今」のアートシーンを感じることができる美術館だ。
 
ロナウド・ヴェンチューラ、聞いたことのない作家だった。
半信半疑で、会場に入ったが、一瞬でその気持ち吹き飛んだ。
 
すごい。スケールも、作品数も。
4mサイズの作品から、立体、インスタレーションまで、何でもあり。
 
作品のテーマ、何だろう。
統一されたテーマはないのだが、
うまく表現できないが、心に直撃してくる感じだ。
 
アニメ、コミック、
戦争、政治、
自然や動物への畏敬、
古典への畏怖。
そしてデジタル文化への懐疑。
 
生活していると脳内に飛び込んでくる刺激と恐怖。
それらが、ごちゃ混ぜになった混沌。
その表現は、今世界にいる現代人の脳そのものなのではないかと、思ってしまった。
 
エアブラシから、古典絵画まで、表現技法も時間を超えている。
 
多様化し、共通項を見つけづらくなった現代。
しかし、大昔と、脳が感じる根本的なものは変わっていないのではないか。
そんなことを考えながら、会場を後にした。
 
5年に一度のヒット。そのくらい素晴らしい展覧会だった。

 

2022.02.18

OKA学園トータルデザインアカデミー学生制作展

 
OKA学園

 
長野市の北野カルチュラルセンターへ、OKA学園トータルデザインアカデミーというデザイン系専門学校の卒業制作展に足を運んだ。
 
学生達はそれぞれブースを構え、スーツに名刺を持ち、展示作品をプレゼンしていく形式。
とても熱気を感じる。
 
ゆるキャラやゲームキャラクターなどのイラストレーション。
 
さらには、それらをアニメーションにしたものも多かった。
専門学校でアニメーションを学ぶ人材が、たくさん出ていることに、
まあ当たり前ではあるが、改めて刻々と変化する時代の流れを感じた。
 
チームでゲームを作っている学生も何グループかあった。
描いたイラストキャラクターが、ゲームの登場人物となっていく。
これもスマホ時代に、新たに需要が高まってきたイラストレーションの表現方法だ。
 
そして、これは今回初めて体験したのだが、
驚いたのが、VRゴーグルをかけて3D空間に描いた建造物の作品だ。
Tilt Brushというソフトで、架空のきらびやかな北野文芸座が表現されていた。
 
3Dのデジタルドローイングライブも開催されていた。
瞬く間に、鳥の絵が描かれ、3D空間へと羽ばたいていく。
 
2時間弱かけて、学生たちに質問など投げかけながら、じっくり鑑賞した。
時代の変化と、今の専門学生たちの興味関心ごとを、存分に味わえた展覧会だった。

 

2022.01.30

白井ゆみ枝 ヒトノユメ 

 
白井ゆみ枝

 
画家 白井ゆみ枝さんと、チャットモンチーの作詞でも知られる高橋久美子さんによる「ヒトノユメ2021展」が、長野県上田市のUNITY0268SHOPで開かれている。
 
白井さんは上田市出身の画家。
ていねいな案内状をいただき、これは行かなくては、と会場へ。
北国街道と呼ばれるこの通りには、古民家風のカフェなどが並ぶ。
会場も風情のあるのギャラリーだった。 
 
会場に入ると、変形キャンバスがランダムに展示されている、不思議な空間。
その自由な雰囲気に一気に入り込んだ。
 
作品は、高橋さんによる詩と白井さんによる絵が一対になった形になっていた。
詩をゆったりと読みながら過ごす時間が楽しい。
 
詩は、日常的なものを題材にしているのだが、角度を変えてみると、こんな素敵な世界が広がっているのか、と思える、すごく敷居の低い身近なもの。
 
白井ゆみ枝さんの絵は、その詩の世界観を絵にしているのだが、
読解して挿絵を描いているという感じではない。
 
どちらかとい言えば、詩の空気感を描いているという感じ。
具体物はほとんど描かれていない。
詩の背景画を描いているような雰囲気で、すごくマッチしていた。
 
文学が絵画作品を生むきっかけになることは、かつてもあった。
しかし、このような詩に溶け込むような表現の仕方もあるのだと、浮遊した世界に浸ることができた。
 
ゆっくりと休日を過ごしたい時。
こんな展覧会に足を運ぶのも良いのではないだろうか。