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updated 2024-05-05

上原一馬 2023年のブログ
UEHARA Kazuma's Blog


 

2023.12.23

庵野秀明展 爆発する空間コンテ

 
アートプレリュード

 
アートプレリュード

 
アートプレリュード

 
マクロス、ナウシカ、ナディア、エヴァンゲリオン、ゴジラ。
この超時空アニメの原画や絵コンテ、監督を務めたのが、庵野秀明だ。
 
その仕事の制作物を一挙に集めたのが、長野県立美術館で開催されている「庵野秀明展」。
 
会場に入った瞬間に宇宙船やロボット、特撮ヒーローと、ホビー感が溢れ出す。
 
彼の描く絵コンテはすごい。
最初に名が出てきたのは、風の谷のナウシカの巨神兵が登場し、崩れ去っていくシーン。
壮大なスケール感と生命感で、一度見た人の脳裏に焼きつく。
 
最も初期の作品は、学生時代の課題作品。
紙に一枚一枚手描きで描かれた、コマ撮りアニメーションだ。
今に通じるような壮大な爆発シーンがすでに描かれている。
 
そして、エヴァンゲリオンのロボットの設定原画から、絵コンテ。
ファンをうならせる、人気アニメの原点を見ることができる。
 
この展覧会では、ロボットやアニメーション、ものづくりが好きな少年が、好きなものにただただ没頭し続けた人生の歴史が集積されている。
 
会場を出る時、誰もが「自分の好きなものを何かを作りたい」そんな気持ちにさせるモンスター展覧会だ。

 

2023.11.25

ヨルシカ 幻燈

 
アートプレリュード
 

今年、私 上原一馬が購入した画集が、「幻燈」だ。
 
この画集は、なんと8,000円以上もする。
しかし、大ヒット。
それは、普通の画集とは違い、画期的な作りをしているためだ。
 
この画集は、音楽ユニット「ヨルシカ」の楽曲アルバムの曲をイメージした絵が掲載されている。
 
加藤隆氏による絵は、物語性があり、引き込まれるものがある。
オーソドックスな豚毛筆のタッチで描かれ、絵を描いたことのない人でも、「こんな絵を描いてみたい」と思わせる純粋な絵画だ。
 
「この絵は何を表しているのだろう」
そんな湧いてくる疑問に答えてくれるように、
バーコードをスマホをかざすと、見ている絵の楽曲を聴くことができ、絵の世界を曲で楽しむことができる。
 
近年、音楽と美術の融合は、アニメーションを使ったミュージックビデオで盛んになってきた。
 
この本による音楽と絵画の融合というこの試みは、デジタル界とアナログ界、Webとリアルを行き来する、挑戦的な試みだ。
 
この本によって、また芸術界の表現の可能性が大きく広がっていく。
そんな気がした一冊だった。


 

2023.10.29

アートプレリュード in Nagano

 
アートプレリュード
 

私、上原一馬が代表を務める「新しい眼 in Nagano」の主催による、
新鋭作家展「アートプレリュード in Nagano 2023 〜あしたのあたし〜
が、元麻布ギャラリー佐久平にて始まった。
 
長野県内で活動する7人の作家たち、20代〜70代まで。
実に表現も様々でおもしろい。
 
まさに「プレリュード」=「前奏曲」の中にいる作家たち。
今日は、それぞれの制作の考え方にも、いろいろな積み上げ方があるのだと、感銘を受けた。
 
会期は、2023年10月29日〈日〉→11月4日〈土〉。
11月4日〈土〉14:00~のトークイベントも楽しみだ。


 

2023.09.30

井田幸昌 幻影

 
井田幸昌
 

井田幸昌。今年になって、この作家との出会いが、一番鮮烈だった。
今年度、鳥取や京都で、美術館での大規模な個展が開催されている。
 
作品はスピード感に溢れ、
伝統技法を熟知しながらも、完全に無視している。
 
写真を見て、古典絵画の絵の展覧会かと思ったら、
人物像は破壊され、現代絵画にアレンジされている。
 
とにかくすごいスピード感なのだ。
しかし、瞬間的に絵具はコントロールされ、美しい勢いだけが残る。
 
それだけではない。
人物像は内面まで表現されていて、表情豊か。
 
印象を重視した、瞬間的な油彩ドローイング作品なのである。
 
多分、油彩を熟知していなければ、ぐちゃぐちゃに濁った画面になってしまうだろう。
 
だが、画面は清潔そのもので、抽象形の光のようなものの中に人物が浮かび上がる。
 
井田幸昌の、瞬間をとらえる感性と、
次々と作品を生み出していく、作家としてのモチベーションの高さに、ひたすら圧倒されてしまった。


 

2023.08.19

シンビズム5

 
赤羽史亮
 
長野県内のミュージアム・ネットワークが企画する「シンビズム5」を観に、東御市の丸山晩霞記念館へ。
 
まず出会したのは、赤羽史亮 氏。
まず作家自身の写真があったのだが、驚いた。
髪の毛は伸び放題、髭も20cmくらいあるのではと思うくらい。その姿は、まるで浮浪者だ。怪しげな作家の風貌に逆に期待が高まる。
 
まず目に入ったのは、大きな丸い物体が貼りつけられた作品。
そこに毛が貼られ垂れ下がり、絵具の分厚い集積。
ものすごい圧倒させられる作品だ。
 
赤羽史亮の作品の特徴は徹底した厚塗りにある。
表現もまた、粘菌と化して描いているのでは、というような生命に直結した感覚を覚える。
何か分からないが、とにかくすごい。
 
絵具の重ねていく時に生まれる、心をつかまれる表現。
そして感じる原初のエネルギー。
 
すごい作家がいよいよ出てきた、と感じた。
 
長門裕幸
 
次の会場は、長門裕幸 氏。
正面の7枚のパネルの作品が、まずは目に飛び込んできた。
 
大きな木版画の作品なのだという。
同じ版で刷られたこの作品は、少しづつ色を変えて取り囲むように配置されている。
樹木の皮膚のような、生命と風合いを感じる作品だ。
 
他にも、近年の平面作品が並んでいた。
一点一点が違う。
 
モチーフや素材、何かスタート地点での感動に基づいて制作しているのだろう。
そのスタート時点の感動の違いが、作品の違いになっている。
だから一点一点が新鮮だ。

 
完成予想図は、もちろん大まかにはあるのだろうが、
どこに転んでいくか分からない不確定要素の中に自ら飛び込んで、楽しんでいるかのようだ。
 
しかし、かなりレベルの高いところで仕上げているところに、様々な素材と格闘してきた作家の力量を感じた。


 

2023.07.30

押井守「とどのつまり…」 不朽の名作漫画との出会い

 
仲村浩一
 

押井守の漫画「とどのつまり…」をメルカリで購入した。
かつてどこかでチラッと読んで、
忘れかけては、また頭にこの漫画のことが気になって過ごしていた。
 
気になっているならやっぱり読んでみよう、と思いネットで検索するがすでに品薄状態。
なんとか見つけることができた。
 
押井守監督の作品は、アニメーションで「人狼」や「イノセンス」など好きな作品も多いので、めずらしい漫画作品も一度ちゃんと読んでみたいと思っていた。
 
半信半疑で読み始めるが、たちまち引き込まれてしまった。
 
この漫画は1980年代に発売されたもので、その時代のアニメーターが主人公だ。
国家組織が強制収容しようとしていた、「アリス」と呼ばれる未登録児童と主人公が偶然に出会うところから、物語は始まる。
 
主人公も狙われ、アニメーター仲間達も巻き込まれるることになるのが、仲間達は平然とそれに立ち向かっていく。
これも、仕事の一つだと言わんばかりに。
 
アニメーターとして仕事をしていたはずなのに、戦闘に巻き込まれ戦わなければならなくなった自分の現実に、主人公は疑問を抱く。
しかし演出監督との問答から、次第にその答えを悟っていく。
 
「誰もが自分の現実という物語を、演じ続ける運命にある。」
「アリスはお前の動機だ。」
 
迷っていた主人公が、物語を演じようドアを開けようとすると、アリスと自分が混ざった一人の姿に変わっている。
 
何のために働いているのか、何のために戦っているのか、
分からなくなっている作り手達に、この本はその答えをくれる。


 

2023.06.10

中村直人 モニュメンタル/オリエンタル

 
仲村浩一
 

「中村直人 モニュメンタル/オリエンタル」を観に上田市サントミューゼへ。
 
中村直人という作家を、地元にいながら今日まで知らなかった。
山本鼎が主導した農民美術出身の作家だという。
 
農民美術の彫刻から制作を初め、立体作品で有名になり、
その後、絵画に転身する。
 
絵画の作品は、一体何で描いているのか。
一見では私にも分からなかった。
この独特の風合いは、ガッシュで描き、もみほぐした後、また加筆したものなどだという。
 
パリでの制作中、ゴミ箱に捨てた自分の作品からヒントを得たのだという。
この風化したような絵肌が、怪しげで記憶を探るような人物画にじつに良くマッチし、独特の雰囲気を出している。
 
中村直人の活動を振り返るとき、目の前の素材をどうしたら最高の作品につなげられるか、という試行錯誤の痕跡が見える。
どのような素材も、彼にとっては創作の導火線となってきたのだ。


 

2023.05.03

第97回 国展 注目の作家は

 
コロナの影響が、徐々に収まりつつある今年。
国展も通常開催に戻ってきた。
だが、本当ならば今日は懇親会の日なのだが、それは中止となった。
紹介する作家達とも顔を合わせて話をしたかったところなのだが、叶わなかったのは残念だ。
今回の国展で私が注目した作家を紹介したい。
 
仲村浩一
 
仲村浩一「青春懐古調」
 
見た瞬間からこの絵の懐かしく温かい世界に引き込まれてしまった。
アンティークな思い出の品々が描いてあるのだが、何かは分からない。
しかし、雰囲気だけで伝わってくるものがある。
過去の思い出の記憶の香りが、溢れてきそうだ。
絵具に砂を混ぜて描かれているのだが、そのザラザラとした風合いが、描いているものととてもマッチしていて、とても心地さを感じた。
 
 
大谷かつ美
 
大谷かつ美「庭、8月」
 
この絵と対面した時、自分の中の「生命」と共鳴したような気がした。
優しく芽吹く植物の芽。その弱々しい生命には、永遠に生まれ変わって芽吹いてくる強い生命感も備えている。
絵の塗りはその力強さを表現するように、ペインティングナイフで厚塗りされている。
削ぎ落とされたこの形には、太古から変わらない普遍の生命の営みも感じる。
夏のまばゆい穏やかな色調の中にも、生命の力強さを感じた作品。
 
 
山本賀弘
 
山本賀弘「Stop the war.」
 

戦争をテーマにした作品。
孤独に歩く人物。後ろには廃墟が描かれている。
背景は、爆撃なのか、この人物の感情なのか、モヤモヤとした激しいストロークで抽象形のドローイングが施されている。
それがこの戦地の情景を、心に訴えかけてくるものに変えている。
遠い戦地で巻き起こっていることに思いをめぐらせ、そこから受けた印象を直感的に絵に定着させた、見事な作品だと思った。


 

2023.04.08

あの日の悲しみさえ

 
上原一馬 あの日の悲しみさえ LEMON 米津玄師

 
2023年5月3日(水)〜5月15日(月)に、東京・六本木の国立新美術館で開催される第97回 国展に、米津玄師さんの楽曲「LEMON」を題材にした作品を発表することが決まった。
 
「LEMON」は米津玄師さんの最大のヒット曲で、ここ15年間の邦楽曲で最も聴かれた曲。2023年3月にはMVの再生回数が8億回を突破し、日本人アーティスト史上最高再生回数を記録した。
 
「何かの曲のイメージを絵に表現してみたい」
そう考えていたところ、この曲「LEMON」の情景が頭に浮かんだ。
 
まず浮かんだのは、薄暗い部屋に寝転ぶおぼろげな女性の姿。
そして、主人公の悲しみに暮れ、物思いにふける男性。
 
この曲は、二人きりのパーソナルな物語だ。
男性目線で、二人の過去の記憶と、今の心情が思いつくままに語られていく。
 
それがなぜか心の琴線に触れ、涙を誘う。
誰しも一度は経験したことがあるだろう、想いこがれた人と過ごした最良の時間。
そして、二度と戻らないその時間。
もう戻ることはないことは分かっているのに、思い出してしまう優しい笑顔。
 
この記憶の匂いをレモンに例えている。
記憶に匂いがあるとすれば、この記憶と感情は、甘く酸っぱくにがいレモンの匂い。
この匂いのように、表現しにくいもどかしさと結びついているのだろう。
 
「LEMON」は個人的な感情を紡いだ曲であるが、
多くの人の共感を呼ぶ普遍性を持っていることが、すごいと思う。
 
絵の中には、「LEMON」の歌詞に出てくるものが、登場する。
 
窓越しの雨。
雨を理由に部屋にいる二人。
今二人がここにいる理由は雨なのだろうが、外の世界で何かあるからという理由が、二人には必要だったのかもしれない。
いっそのこと降り止まず、二人を引き止めてほしいとも聞こえる。
 
こちらをのぞき込み、微笑む女性。
この場面は直接歌詞に出てくるわけではないが、「わたしの光」「横顔」という言葉から、微笑み合ったころの彼女の姿を表現している。
この女性は、記憶の中の姿のように、消えかかるように描いている。
 
そして作品の中央の机の上に、二人の思い出の記憶の象徴としての、レモンを描いた。
 
絵のタイトルは「あの日の悲しみさえ」。
「LEMON」の歌詞を引用している。
約横2m、縦3mの大きなサイズの作品だ。
 
絵とともに、また「LOMON」の楽曲を聴き返してもらえればと思う。
LOMON」曲がこれからも、私と同じように、誰かの心の救いとなっていってほしいと願っている。

 

2023.03.04

今日は1ミリしか

 
上原一馬

 
今日はIミリしか進まなかった
 
しかし確かに昨日よりは前進した
確かに俺は成長している
 
これが俺の感動の軌跡なのだ
これが俺の芸術なのだ

 

2023.02.04

大竹伸朗展 パンクな衝動も美になり得る

 
大竹伸朗

 
東京国立近代美術館で開催の「大竹伸朗展」を観に上京した。
 
16年前の東京都現代美術館での大規模な個展を、仕事を理由に見逃してから、「なぜ観に行かなかったのだろう」と後悔にさいなまれ続けていた。
 
そしてようやく、大竹の作品に触れるチャンスがやってきた。
 
コロナ禍における事前予約制。
ネットで時間指定を取り、ただこの展覧会を観るためだけの東京。
 
期待は裏切らなかった。
まず、入った瞬間から、会場を天井までところ狭しとギシギシに埋め尽くす作品群。
その量に圧倒される。熱量がすごい。
 
作品はもはや理解不能。
ただ、コラージュをしたり、剥がしたり。
意味不明の作業の蓄積。
衝動的に、しかし繰り返し熱意を持って作られている。
 
自分のアンテナに引っかかった、得たいの知れない何か。
そんなもので作品は構築されている。
そこに、もはや理由はない。
 
日常生活の中でうごめくモヤモヤとした自分の感情が、
なぜか大竹の作品と共鳴する。
 
立体作品もすごい。
平面だとコラージュというのだろうけど、
立体の場合はなんというのか。
様々なものが無秩序に、しかしある調和をもって組み合わされ、
また自分の心の奥底にある、無秩序とシンクロする。
 
会場は、大勢の人で混雑していて、コロナ禍の展覧会とは思えない盛況ぶり。
どこかで大竹の作品に魅かれ、この一時期のこの場所に人々は、どこからか集まってくる。
全てが変わってしまったオンライン時代においても、リアルな作品鑑賞体験を求める人々の姿も印象的だった。

 

2023.01.09

国展NAGANOアートフェスタ 

 
国展NAGANO

 
国展NAGANOアートフェスタが松本市美術館で開幕。
1/9月祝にはトークイベントが開催された。
 
パネリストは、
絵画部の高山正弘さん、浜福子さん、大森康一さん、
工芸部の北原進さん、写真部の植田清志さん。
私 上原一馬は司会を務めた。
 
長野の1月こんな寒い時期に、人集まるの?
と思っていたが、県外からもお越しいただき、多くの美術ファンが集まった。
 
作家同士、こんなに何度も会っているのに、
「本当の制作の話」をいかにしていないか、に気づく。
 
私自身も大変勉強になった。
 
「構図はビシッと決める」とか
「収束の構図、拡散の構図」など
作家独自の言葉を使い、その考えのもとに制作を続けていることが分かる。
それが、そんな考えもあったのか!
と新鮮でおもしろい。
 
創造の戦いは無限だ。
宇宙の果てまでも戦いたい。
パネルディスカッションは、草間彌生のそんな言葉で締めくくられた。
 
集った作家たちもこのイベントが終わると、それぞれのアトリエでの制作が始まるのだろう。