絵画作家 上原一馬 ウェブサイト

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updated 2024-05-05

上原一馬 2018年のブログ
UEHARA Kazuma's Blog


 

2018.12.29

ロバート・ハインデル クールに軽やかに

ロバート・ハインデル

 
私の好きな作家にロバート・ハインデルがいる。
 
アメリカの1980〜90年代に活躍した作家だ。
 
ダンサー達の躍動を描き続けた。
ピンとした画面の緊張感が特徴だ。
 
まずは、優れたデッサン力が素晴らしい。
どんな一瞬の表情や動きも、素早く捉え、最後まで描き切る。
 
次に色。
抑制された色彩の中にも、爽やかさと奥深さがある。
 
そして、人物の画面への溶け込ませ方だ。
単なる写実ではなく、ある一部分は光や、すっきり抽象化された背景に消える。
人物は、無理なく画面の構成要素に変わる
 
描き方のバリエーションも広く、一点一点が見本になる。
 
また日本に作品がやって来ることを楽しみにしている。

 

2018.11.18

束芋さんとの出会い

束芋

 
束芋 上原一馬

 
束芋 さんとまさかお会いできるチャンスがあるとは思わなかった。
 
アニメーションを使った空間演出による作品制作を行う現代美術家の方だ。
 
初めて束芋さんの作品を見た時の衝撃はすごかった。
浮世絵とも漫画ともつかない絵が動いている。
妙に心の中に入り込んでくる、うなされた時に見るような夢のような世界。
会場全体にプロジェクションされた空間の中で、束芋さんの脳の中に入り込んでしまったかのような錯覚。
そして、絵画や彫刻などという分野を全く 飛び越えてしまった新しい表現。
何もかも、打ちひしがれた感覚だった。
 
現在も忙しく国内外を飛び回る束芋さん。
今回もパリでの展覧会を控え、たまたまアトリエのある長野県に帰っている時に、奇跡とも言える出会いをすることができた。
 
質問に対しても丁寧すぎる対応をしてくださり、
制作に関すること、たくさんお聞きすることができ、光栄としか言えない感じだった。
 
手描き線画で描いていることの意味。
パソコン上でPhotoshopで、その線画に浮世絵の色を貼り込む画面や、
ある動画のコマの一枚一枚まで。
まさか見ることができるとは思っていなかったので、感激とはこのことだ。
 
失礼だが抱いていたイメージとは違い、本当に気さくな人当たりの良い方だった。
持っていた束芋さんのデビューVHS、ベスト盤とも言えるDVDに、なんとイラスト入りのサインをしてくださった
 
次の作品では、きっと違う見方ができると思うので、本当に楽しみにしている。

 

2018.10.20

柏木健佑 何だ夢だったのか

 
柏木健佑

 
柏木健佑という作家の絵が気になっている。
 
まだ学生なのだが、二紀展に出品する、第8回絹谷幸二賞も受賞した新鋭だ。
 
彼の絵は心に引っかかってくる不思議な魅力がある。
 
まず、この国はどこなのだろう。
中世の匂いがあるのだが、よく見たら、日本の民家が描かれている。
時代や国を超えた無国籍感がある。
 
一体何の場面を描いているのだろう。
壁に男が頭をぶつけたかと思うと、その壁をすり抜けていく。
 
後ろには、椅子に座り旗を持ってジャッジしようとする初老の集団。
布がかかった塊は一体何だ?
 
人々は、家の中に列をなし吸い込まれていく。
 
ある日眠っている間に見た夢。
目覚めた後、 「何だ、夢だったのか。」と胸をなでおろすような、あの感覚。
その夢の中の世界に誘うような、無関心ではいられない何かがある。
 
他の例で言うと、見たら忘れられない横尾忠則の油絵だったり、
最近で言うと、依田洋一朗の絵だったり、
奇妙な夢の世界を描く絵画には、頭にこびりついてくる何かがある。
 
柏木健佑、彼の顔写真も載っていたのだが、
ロン毛の、実に怪しい人物であることが分かった。
 
俗世間から離れ、ひたすら自らの精神世界を描くために、
制作に没頭する青年画家の 姿である。
 
そんな風貌もまた、いいと思った。

 

2018.09.22

ムカイヤマ達也 哲学青年の描く絵

 
ムカイヤマ達也

 
ムカイヤマ達也は同じ長野県の作家だ。
この『画布のステージ』という作品に目が留まった。
一瞬、写真かと思って見過ごしそうになったが、「oil on canvas」と書かれていて、確かに絵画であることが分かった。
それはそうと、この絵は何が描かれているのだろう。
室内なのか風景なのか分からなかったが、良く見ると、室内で自ら構成した静物画のようだ。
しかし、何が描かれているのか。
とりあえず、キレがあってかっこいい絵だと思った。
さらに凝視すると、後ろに鏡のようなものがあってこの複雑な静物が映っている。
何やら、ものすごいこだわりを感じ、とりあえずファイリングすることにした。
 
日にちをおいて、ネット検索してみるとHPが見つかった。
絵の印象から、美大を出たばかりの若者を想像していたが、画歴には「独学で学ぶ」と書かれていた。
本当だとすれば、ものすごいセンスだ。
確かに技術的には、巧みというわけではない。
しかし、その素材に向かう新鮮な感覚が、何とも言えないアンバランスさを生み出して、おもしろい。
絵具を大量に画面上に乗せ、板状のもので引っ張り混ぜあわせる、ゲルハルトリヒターの描いた残像のようなスピード感がある。
 
どんな考えを持っているのかと思うと、彼のコンセプトを記した難関な文章が見つかった。
絵画という狭い領域の中で、自分の居場所を見つけ、哲学的思考によって自問自答をくり返す。
彼の人生の中で、絵画がなくてはならない必然性との出会いであったように感じられた。
 
その他を寄せつけず、クールに我が道を深めていこうとする姿勢が、清々しく感じられた。
彼の作品の魅力は、こんなところから感じたのかもしれない。
 
この先どこかで彼に出会うことがあるだろうか。

 

2018.08.18

橋爪彩 美しい性と死

 
橋爪彩

 
橋爪彩

 
橋爪彩という作家との出会いは、美術雑誌だった。
スキャンダラスなインパクトのある絵に目が留まった。
 
その時は、何か特別な存在にはならなかったが、
時間は経ち、やはり彼女の絵のことが、気になってしまっている自分がいた。
 
本屋をうろついていると、一冊の本の表紙に私の視線を釘付けになってしまった。
島本理生氏の『ファーストラヴ』。
「まさか...」とは思ったが、表紙をめくると、橋爪彩の名があった。
またもや、彼女の絵を見つけてしまった。
 
彼女の絵は、静かだ。
時間は止まり、静かなのにも関わらず、心をえぐられるような危うさに満ちている。
 
若さという有限で純白な時間。
そこに潜む悩みや恐怖。
しかし、それを穏やかに受け入れ佇む女性たち。
 
もっとも美しい年齢の性(エロス)と、その裏腹に潜む死が、
画面上で危ういバランスで成り立っている。
 
彼女の絵は 、古典技法でていねいに書き込まれている。
しかし、古臭い感じはせず、現代女性の美しさを違和感なく閉じ込めている。
 
私は古典絵画を見ると、なぜだが、高尚すぎるゆえに恐怖を感じることがある。
古典を見て感じたような、触れてはいけないような恐怖感。
同じ空気を感じてしまうのだ。
 
これから先、彼女の絵に心奪われてしまうことが、またあるのだろうか。

 

2018.07.29

デザインフェスタギャラリー 若者たちの巣窟

 

デザインフェスタギャラリー
 

始めてデザインフェスタギャラリーDESIGN FESTA GALLERYへ。
 
若い作家たちから、原宿にあるこのギャラリーでやりますと、よく案内をもらっていたのだが、
なかなか行けずにいた。
 
竹下通りを横目に、さらにディープな街中にこのギャラリーはあった。
 
ギャラリーというより、怪しげなビルだ。
鳥の巣のような鉄の棒に囲まれた外観。
周囲の壁一面のペイント。
すでに入る前から、妙なエネルギーに包まれていた。
 
入るとすぐ、作品がところ狭しと並ぶ。
次から次へと小部屋が乱立している。
20もの大小のギャラリーでこのビルは構成されているのだ。
 
絵画から、イラストレーション、小物や服まで何でもありだ。
作家たちも積極的に丁寧に接客をしてきてくれる。
 
作品ばかりでなく、ポストカードや缶バッジにグッズ化し、
作家と話しながら、一般客も手軽にそれらを買っていく。
クリエイティブな「熱気」が館内に充満している。
 
特に印象に残ったのは、「ケビンばやし」という女性作家。
鉛筆やペンで描かれた作品で埋め尽くされた小部屋には、人が溢れていた。
ポストカードもほとんど残っておらず、壁の作品もほぼ完売していた。
彼女の充実感に満ちた笑顔が印象的だった。
 
WEST、EASTと二つの館を一周すると結構疲れるが、カフェやお好み焼きレストランもあり、一箇所でだいぶ楽しめるスポットだ。
敷居の高いギャラリーの概念すら、若者文化は変えていく。
 
ここから多くの作家が巣立っていく、まさに「巣」のようなギャラリーだと感じた。


 

2018.06.16

イヴァン・スラヴィンスキー 華やかで艶やかな女性像

 

イヴァン・スラヴィンスキー
 

イヴァン・スラヴィンスキー Ivan Slavinsky。
 
1968年生まれの現存するロシアの画家であるが、
日本ではほとんど知名度がないこの作家が、私は大好き過ぎるのである。
 
彼の描く女性像は、とにかく美しく、クールでかっこいい。
 
筆の勢いをそのまま残していく描き方。
そして、鮮やかな色彩。
 
物憂げな女性の表情は、どの絵も魅力的だ。
 
油彩でしか表現できない厚塗りのこの表現に、
私は瞬く間に魅了されてしまった。
 
アクションペインティングのような筆さばきで大胆に描かれているかと思いきや、
顔はエアブラシで描かれたように繊細。
このバランス感覚が、スラヴィンスキーの魅力だ。
 
作品数も半端ではない、量産を続けているが、
どの作品にもハズレというものがない。
 
日本に作品が来たらどこであっても絶対観に行きたいと思うし、
作品集も見つけて買いたいと思っているところだ。


 

2018.05.03

国展クイズ2018(第92回展)

 

第92回国展2018
 
 
このページは、伝統公募展である『国展』(絵画〜彫刻)の鑑賞を、めちゃめちゃ楽しめるように勝手に考えた、子ども用クイズ企画です。
「美術展なんてつまんな〜い」って言う子ども達に最適です
プリントアウトするか、携帯画面を見ながら、クイズを出しながら、お子様といっしょに国展の鑑賞をお楽しみください!
(公式ではありませんし、今回限りかもしれません...あしからず。
 
【 国展クイズ2018(92回展) 】
 
番号は、部屋番号のことだよ。
全問できたら、おうちの人からごほうびがあるかも?!
 
●一階
 
1「青い舟」開光市
お皿の上に乗っているのは?
 
2「船上のパーティー」佐々木豊
右上のお店は何かな?
 
3「ジャングルジムのある公園で」徳弘亜男
飛んでいるのは、何のぬいぐるみ?
 
4「仲間たち・浮遊の図」岩岡航路
ブタが追いかけているのは?
 
5「罪、堕落・希望」安富信也
鳥が運んでいるのは何かな?
 
6「INSIDE」大島聖
空に飛んでいるのは?
 
7「海の中の物語」植月正紀
魚に食べられているのは何でしょう?
 
8「胎動」石原重人
描かれている昆虫は何でしょう?
 
9「primavera」肥沼守
葉っぱから顔を出している動物は?
 
10「keats以降(夏)」大沼蘭
カタツムリはどこかな?
 
11「円相」坂本伸市
海のものが、閉じ込められているよ。何かな?
 
12「春」上條喜美子
ヨットはどこにあるかな?
 
13「初夏の広場で」小西千穂
何時の絵かな?
 
14「庭」瀬尾昭夫
猫が二匹いるよ。どこかな?
 
●野外彫刻
 
「それで、幸せって何?」稲生弘志
カバとお話ししているのは?
 
●彫刻
 
①トカゲの作品を見つけよう!
 
②子どもと猫の作品を見つけよう!
 
③「トカプシ1」三島樹一
大きな豆いくつあるかな?
 
●二階
 
15「旅は森の中へ」上原一馬
シカはどこにいるかな?
 
16「古器物集合」本城義雄
サイコロはどこかな?
 
17「道化する弱虫」川越ゆりえ
ピエロの虫はどこかな?
 
18「王国の掟」河路郁美
イカはどこかな?
 
19 人工衛星の作品はどれかな?
 
20 テントウ虫の作品はどれかな?
 
21「Cloud-18」宮﨑雅子
ABCの文字はどこかな?
 
22「La・針盤」田村あさこ
頭から出ているのはチョウとトンボとガと何かなかな?
 
23 ヒョウの描いてある作品は?
 
24「fishing-B」福島和子
亀はどこかな?
 
25「輪廻転生」岡本皖子
ペンギンはどこかな?
 
26「あたまんなか」高橋すずね
人の顔はどこから出ているかな?
 
27「ドローイング」新屋怜子
パンダが助けているのは?
 
28「どこかのくくりとのはなし」小野寺光
人が四人いるよ。探してみよう。
 
29「正義の味方Ⅱ」恩田久雄
クジラはどこかな?
 
30 ゾウが描かれた作品は?
 
31 ゴリラが描かれた作品は?
 
32「森の詩Ⅰ」樋野梢
人を囲んでいる生き物は?
 
33 トカゲのいる作品はどれかな?
 
34 コイのいる作品は?
 
35「休息」高橋英夫
ケガをしたおじいさんの上に乗っているのは?
 
ゴール!!おめでとう。
引き続き、写真や三階の版画、工芸をお楽しみください。
 
●答え
1魚  2たこ焼き屋  3クマ  4星  5葉っぱ  6龍   7エビ  8セミ(ハチでも正解)  9猫  10左下  11貝  12左上 13二時   14右下、真ん中右
野外彫刻 丸い妖精   彫刻  ①「廻る」加藤紗和子  ②「まいうぇい」鈴木琢磨  ③16個
15真ん中  16真ん中  17真ん中下あたり  18左下   19 「時空Ⅲ」畑斡子   20「星めぐりの歌をききながら」白神裕彦   21真ん中右   22ハチ  23「認識の境界」秋ゆかり  24真ん中下  25右上   26マンボウ  27小さいパンダ  28真ん中に二人、右下に二人   29右下あたり  30「大切なモノ」笹栗健二朗  31「charos雑夢」加藤弘孝  32龍   33「古木.017.2」 河嵜緑子   34「yura-yura」草野順子  35猫


 

2018.05.02

第92回 国展 2018

 
今回の国展で、私の心を捕えた作品達。
予測不能な表現で、その作品達は現れる
新しい表現の形に出会う時、何かザワザワした感覚がやってくる。
 

小野寺光
 
 
小野寺光 〈どこかのくくりとのはなし〉 絵画部奨励賞
 
今回、私が一番良いと思った作品。
 
まずは軽やかな色使いに惹かれた。
水色をベースに、うす紫やライトオレンジなど。心を明るくさせてくれる色使いだ。
 
そして、形体の伸びやかさ。
とても気持ちの良い形。そして筆のストローク。
 
抽象かと思いきや、その中にぼんやり現れる、現代の若者のイメージ。
その入れ方が絶妙で、にくい。
 
夢の世界のような不思議な曖昧な世界に、引き込まれるようだ。
 
ちょうど先日、大槻香奈の画集を買ったのだが、
小野寺光という作家もまた、イラストレーションとも絵画とも分類不可能な、新しい絵画の領域に立っているような気がする。
 
 
池田愛花里

池田愛花里〈腐乱する性〉
 
こんなすごい抽象画には最近出会ったことがない。
本当にすごすぎる。
 
抽象なのだが、妙に生々しい生命感にあふれている。
そして、生命の不気味なうごめきを感じるのだ。
 
抽象なのにも関わらず、描写している。
何かをモチーフにしているのか、それとも頭の中の理想形態に近づけているのか、
とにかく丁寧に何かを描こうとしているのだ。
 
絵具をまき散らしたり、にじませたりしているのだが、
使われているのは、伝統的な調合を用いた油彩の混合油だ。
 
自分の醜くも美しい理想像を描くため、超クラシックな伝統技法まで、吸収しているのだ。
 
こんなにも何かに忠実に、真面目に、この怪しい形態を描き上げようとしている、
そのひたむきさ。
 
 
才能というしかない、作家の力量だ。
 
 
伊藤真里奈

伊藤真里奈〈愛の献上品〉
 
何だこれは?の作品なのである。
 
貴族のようなベットの上に、ぽっちゃりとした、お世辞にもイケメンとは言えない男性。
しかも、白シャツに半ズボンに、白靴下というアンバランスさ。
 
それだけではなく、光沢のある高級感あふれる赤いリボンで、縛られている。
 
作者がどんなメッセージを込めたかったかは分からないが、
このナンセンスさが、ものすごくいい。
 
この作品を描くためには何ヶ月もかかったはずだ。
描写も的確でていねいで、素晴らしい。塗り重ねも時間をかけて制作されている。
 
そうとうな苦労をしたはずなのに、
「何で、この絵?」というばかばかしさ。
 
審査の時も、会場を笑いと困惑で一気にざわつかせた。
この絵は、本当に面白いのだ。
 
もう一度良く観たいと思っていたが、作品が上の方にあり、近くで観れなかった。
 
 
横山七海

横山七海〈纏う(まとう)〉
 
新人作家企画展示より。
  一番目についた作品。
 
和風の可愛らしい色合いで人物が描かれている。
 
何ともホッとさせる柔らかい表現なのだが、
今にも消えそうな、何とも危うい弱さがただよっている。
 
画面の塗りも薄くて、たどたどしい。
 
この何とも頼りない表現が、全てのものを削り捨てて、
余計な邪魔者から逃げ去り、行き着いたものであるような感じがしてならない。
 
若いなりに、自分らしさにたどりつくために歩み出しているような、妙な潔さ。
純粋でストレートな感じが、印象的な作品だった。


 

2018.04.29

野村昭嘉 太古の文明の未来

 

野村昭嘉
 

出会った作家の中には、「あの時はいいと思ったんだけど...今は飽きちゃったな」という人もいるのだが、 この作家は違う。
 
今では、彼の数少ないの本物の作品を見る機会は、まずないわけだが、
頭のこびりついて離れない。
 
ふらっと立ち寄った図書館に彼の作品集があった。
そして、あっという間にその世界に引き込まれた。
 
この絵は何だ?
フレスコのような大昔の絵の匂い。
ヒビの入った漆喰のような絵肌は、まるで長年の風化の産物のようだ。
 
エジプトの壁画のように、刻まれたストーリー。
しかし、描かれているものは、遠い未来のような空想の乗り物。
 
太古のロマン。未来への空想。
少年の憧れが、ここに凝縮されていると同時に、
骨董品のように貴重で大切なもののような気がする。
 
20代の人の絵?と思うほど、卓越した技術を持ち、
完成された世界観で描かれている。
 
彼は、不慮の事故で若くしてこの世を去った。
 
「忘れられない絵」。
数十点しか現存しない野村昭嘉の絵は、まさにそんな作品だ。


 

2018.03.21

毛利彰 本物の絵師

 

毛利彰
 

人生で最も、衝撃を受けた絵を挙げるとしたら、間違いなくこの人の絵を選ぶ。
毛利彰というまさに「絵師」だ。
 
私の母親が持っていた、手塚治虫の「火の鳥」(角川書店)ハードカバー版の表紙で、この絵師に出会い、
小学校高学年で歴史に興味を持った私は、「歴史群像シリーズ」(学研)で、リアルな武将像で、戦国時代の合戦シーンに想いを巡らせた。
 
写真かと思ったら、周囲が絵の具のにじみ跡が残っている。「これ絵なんだ!」という衝撃を受けた。
少年の私は「どのくらい大人になったら、こんなにうまく絵が描けるようになるのだろう。」と、憧れていた。
 
毛利氏の手にかかると、空想の世界は現実の世界に変わり、
歴史上の人物は、確かに剣を持って戦っているように感じられた。
 
イメージに近いモデルを緻密にデッサンし、その時代の服を着せ、
瞬く間に現実世界にしてしまう、まさに絵師の仕事である。
 
アクリル絵具の薄塗りと油彩のような厚塗りを駆使して、こんなにも描くことができるのは、なぜか。
すごい実力である。
 
2008年に毛利彰氏は残念ながら亡くなってしまった。
出身地の島根では画展がされていたようであるが、大規模な回顧展はまだされていない。
毛利氏の功績からすると、もっと大々的に展覧会が企画されてもいいものだと思うのだが。
 
デジタル世代は毛利彰の絵を見て、一体何と言うのだろう。


 

2018.02.17

ジェニー・サビル そこに在る人間像

 

ジェニー・サビル
 

ジェニー・サビルは、今や世界を代表する作家の一人だ。
 
イギリスの女性作家で、人気が高く、1点8億円もの高値で作品は売買されている。
 
彼女の作品の特徴は、迫り来るというか、決して無視できない人物像の圧倒的な存在感である。
 
肉感的に描かれた人物像からは、その存在の確かさとともに、内面や魂までも、こちらに伝わってくるようだ。
 
有名人だとか決して特別な存在ではないモデルの人物は、
確かにその時その人物がいたという、強烈な証となる。
 
絵に表されなければ、知られないままであっただろう人物が、意味ある存在としてそこに「ただいる」。
そのインパクトのすごさ。
 
人物の存在を塗りこめるように描かれる油彩による厚塗りもまた、この絵を成り立たせる要因となっている。
一見すると雑に塗られたようにも見えるが、その一筆一筆が、形体を形作るための効果的な筆さばきをしていることが分かる。
 
モデルを前に油彩で描くという、オーソドックスでシンプルな仕事ぶりの中にも、 世界の人々の心をとらえる何かがある。


 

2018.01.28

守屋麻美 奇妙に美しく

 

守屋麻美
 

東京藝術大学の卒展へ。
 
藝大構内では、油画科の学生が、教室で個展形式の展示を行っている。
 
中でも、印象に残ったのは、守屋麻美という学生の絵。
上の画像のような絵で部屋は埋められていた。
 
風景の中にうごめく巨大な空想の珍獣。
その怪しい生命体は不気味なのだが、あまりにも美しい。
まるで、トロピカルな果物のように鮮やかで、みずみずしいのだ。
 
そして、何と言っても、描き込みのすさまじさ。
ものすごい迫力だ。
 
このような想像の世界を緻密に描くことは、
相当な実力と、そして根性がなければできない。
 
学生なのに、すでに独立展の準会員になっているという。
公募展は、一発勝負は効かない。
高レベルの作品を、毎年コンスタントに出せなければ、評価されない。
確かな実力の持ち主であることがうかがえる。
 
まさか学生の展覧会で、このような絵に出会うとは思わなかった。