絵画作家 上原一馬 ウェブサイト

UEHARA Kazuma Website

 
updated 2024-05-05
 

 

2013.12.08

平林貴宏 古風に妖艶に

 
 
平林貴宏

 
平林貴宏。まだ30代の院展の作家である。
 
色彩は古風。
しっとりとした画面は、なぜか懐かしく快い感覚になる。
 
それに対し、表現内容は斬新さと現代性が見え隠れする。
落ちてくる蝶や花。
何か危うく、はかない雰囲気だ。
 
絵から臭う妖艶な雰囲気は、ハンパではない。
 
構成も憎いくらい、「決まって」いる。
 
日本の伝統に新鮮な感性を吹き込んでいく平林は、
きっと新しい日本画界を担っていく存在になっていくのだろう。

 

2013.11.24

賈藹力 ジァ・アイリー 現代と未来の狭間で

 
 
Jia Aili 賈藹力 ジァ・アイリー

 
アート市場が中国に移り始めている。
上海、香港、北京。
熱いアートのエネルギーがマグマのように詰まった街。
 
賈藹力 ジァ・アイリー。
私の好きな中国の作家の一人だ。
 
中国の作家には卓越した技術を持つ者が多い。
彼もまた優れた力量を持っている。
 
しかし、ただ技術的に優れているわけではない。
賈藹力の作品は、現代性と社会性を兼ね備えている。
 
瓦礫やガスマスクは、中国の現在なのか。未来なのか。
 
迷いなく油彩で一気に描き上げていく、ストロークのスピード感。
クールな色合い。
 
近未来の風景を彼は、直感的に、溢れるエネルギーで、描き続けている。

 

2013.10.20

開光市 深層の人物像

 
 
開光市

 
開光市。
 
彼の絵との出会いが、私の国展へ出品を決めさせた。
 
行き場の見つからない 学生時代。
目の前の課題のみをこなし、
目標も見つからず、 ただ悶々と、
ビデオを見て過ごすか、飲むか カラオケ か。
創造性のかけらもない、小金と時間を浪費するだけの日々。
 
静かな絵の教室の机に置いてあった画集に、
彼の絵は載っていた。
 
多くの絵があったはずなのに、
なぜ開光市の絵だけに、これほど衝撃を受けたか分からない。
 
ぐにゃりと曲がった人物像。
だぶって見える顔。
 
訳の分からない叫びがそこにあった。
 
曖昧で不安定だった心に、その絵は入り込んできた。
すべてが嘘臭く思えていたのに、絵は真実を語っているように思えた。
 
「こんな絵が描きたい」心からそう思った。
 
90年代、00年代は、まさに開の時代だった。
巨大な絵を描き、年に何度も個展をし作品を完売させていく姿は、目に焼き付き、
「開光市みたいにやってやる」
そう思いながら、ひたすらに描いた。
 
誰もが出会うであろう一枚の絵との出会い。
自分にとって、それが開光市の絵だった。

 

2013.09.15

坂本友由 涙目少女

 
 
坂本友由

 
上の絵は、坂本友由という新人の作品だ。
 
一度見たら忘れられない。
引っかかってくるものがある。
 
コミカルな動作を描いているが、
なぜか目には涙。
 
春の光と対照的な不気味なしぐさ。
 
不条理にさらされながらも、明るくかわいらしく生きる現代女性を表しているようだ。
 
技術は確かなものがある。
ここまで描けるのに、真面目にふざけてこの絵を描いているのがすごい。
 
石田徹也や篠原愛とともに、彼もまた今をときめく作家になっていくだろう。

 

2013.08.02

直島 アートで島は蘇る

 
 
豊澤めぐみ

 
瀬戸内芸術祭を見るため 直島 へ。
 
本土からフェリーで10分の港に着いた。
 
家をまるごとアート作品にするという、町並みに点在する「家プロジェクト」の数々。
海の見える丘にある、ベネッセハウス ミュージアム ・地中美術館・ 李禹煥美術館。
海岸線に立ち並ぶ、草間彌生やニキ・ド・サンファールなどの立体作品。
 
過疎化の進んでいた漁業の島は、みごとにアートで復興していた。
フェリーに並ぶ人のびっくりするほどの行列がそれを物語る。
アートスポットも並ばなければならないほど混雑していた。
外国人もたくさん見かけた。
 
古民家は、おしゃれな宿泊施設やカフェに生まれ変わり、
その辺でかき氷を売れば飛ぶように売れる。
 
アートは人を集める力がこんなにもあるのか。
あらためてアートの底力を知った。
 
一番印象に残ったのは、上の写真の 大竹伸朗の家プロジェクト 「はいしゃ」舌上夢 ボッコン覗 だ。
さびた家の壁には、さらにガラクタが貼付けられている。
近代的な入口を通ると、壁や床はコラージュとドローイングで埋め尽くされていた。
二階に進むと、なんと自由の女神がまるごと閉じ込められていた。
 
何がなんだか分からないが、とにかく衝動的な熱をビリビリ感じる作品だった。
(直島銭湯「I♥湯」ももちろんすごかったが)
 
瀬戸内には今、アートスポットの数々が点在している。
少し長めの休暇に、 アートを感じながらのゆったりとした観光に、 一生に一度は行ってもらいたいオススメスポットだ。
絶対損はしない。

 

2013.07.21

豊澤めぐみ 少女ロック系

 
 
豊澤めぐみ

 
新制作に 豊澤めぐみ という新人がいる。
 
新制作展に出し始めてまだ3年目だという。
 
絵に登場するのは危うい若い女性。
無表情な彼女らは、ショッキングな関係の中で登場する。
 
思わずドキリとしていまう絵だ。
 
背景は抽象化され、無限の空間を感じさせる。
 
幻想と現実の合間で、心の奥深くの世界をのぞき見る。
 
「少女ロック系」。
若者が音楽を聞き、歌い叫ぶように、豊澤めぐみは描く。
新しく現れた彼女のような表現は、新風となるのか。

 

2013.06.23

走る絵

 
 
大星塗装工業とのコラボでバイクタンクを制作することに。
 
大星との共同 制作は今回で2回目。
前回は初めてで、こうすれば良かった感が残っていたので、今回はその反省点を生かしての参戦。
 
制作することになったのは、ホンダのエイプ100DX HONDA APE。
もともとは、シンプルなデザインのバイクだ。
 
このシンプルなバイクのタンクに、誰がみても目を引くような個性的でかっこいいデザインをほどこしてほしい、というのがクライアントの要望だ。
 
さっそく、自宅のアトリエで下絵制作に取りかかった。
現物大の紙に鉛筆を走らせる。
バイクタンクは紙で平面に直すと何角形とも言えない形になった。
できあがりの立体を想像しながら描く。
 
デザイン画ができたところで、 大星塗装工業の工房へ。
 
大星塗装工業

 
上の写真は塗料を調合してもらっているところ。
次にマスキングをかけ、エアブラシで吹き付けていく。
 
なかなか、思いどおりのぼかしができずにいたが、後半でようやくコツをつかんできた。
 
大星塗装工業

 
マスキングをはがすと、目が覚めるような美しい赤ラインが。
 
この日は、現場作業のみ。
次の日、アトリエで筆のを使ってペイント作業。
 
上原一馬

 
カーボン紙で下絵を写したら、シルバーゴールドでペイント開始。
形の先端に気持ちを注ぐ。
 
テーマは「フェニックス」。
かっこ良く飛ぶように走り抜ける、 神々しい 不死鳥のイメージだ。
 
予想以上に色は透過してしまい、重ね塗りをくり返す。
8時間経過。
ぶっ続けの作業とシンナーの臭いでさすがに意識がもうろうとなる。
 
上原一馬

 
床に置いてみる。
タンクは二つで、絵が両方のタンクにまたがりつながって見えるようにした。
 
関口陽介

 
これが完成作。
もともとの赤のパイプとも、見事にマッチした。
 
夏の日差しにきらきら光る、「ちょい悪な」デザインだ。
見たことのないエイプを見かけたら、それは上原のデザインかもしれません。

 

2013.05.01

第87回国展2013

 
 
 
国展の審査が終わり、初日を迎えた。
 
今年の審査では司会進行も行い、緊張感の中にいた。
 
「良いのに」と自分は思っても、審査員の手が上がらない作品もある。
作品の出る順番で、やはり手が重い時間帯というか、がある。
 
1年間苦労してきただろう作品に、票を数え、「C(落選)です。」と宣言しなければならない辛さも知った。
 
しかし、国展の審査員はやはり違う。
 
あんなに手が上がらなかったのに、新鮮な感性の作品の前にすると、急に眼を見開いたようにバーッと上がる。
当たり前だが、見ていないわけではない。
ワクワクさせてくれる作品を待っているのだ。
 
 
私が心を動かされた作品は次のものだった。
 
福室千尋

 
福室千尋「Fantasis」 (準会員)
 
なんとやさしく、おだやかな光だろう。
瞬間的に感じたことがあるような、まばゆい光に包まれる。
シャボン玉の奥に見たことがあるのかもしれない。
 
心地よく、いつまでもこの空間にいたい。そう思わせる絵だ。
 
男性の私にはこんな絵は描けない。
やはり、女性にしか見えない世界があるのかもしれない。
 
他の作品とは雰囲気が違う。
良い作品だと思う。
 
 
米田雅

 
米田雅「風の秩序」( 国画賞)
 
黒い静物がひたすら緻密に描かれている。
なんのことはない、どこにでもありそうな静物だ。
 
彼は実は、出家したお坊さんなのだという。
 
欲を捨て、隔離された世界で、ただひたすらに対象に向かう。
色彩も持たない世界で、真っ黒な静物をただただ描き込み、空いたところにまた描く。
 
その行為の中からこの作品は生まれた。
なぜ、感動を呼ぶのかは分からない。
 
しかし、ぐいと胸をつかまれる。
 
 
上原千紘

 
上原千紘 (新しい眼–若手作家の挑戦状 絵画部企画展示から)
 
写真は、小作品の連作(20点くらい)の中の一つ。
このような不思議な世界観の作品群でスペースを埋めていた。
 
「なんだこれは」である。
夢か幻か。
 
日常を描いているのに、非日常である。
その境界をあっさり越えた世界に引き込まれる。
 
現実離れしているのに、妙に共感できるところもある。
 
このような作品が、一点一点几帳面に描かれている。
「すごい」としか言いようがない。
 
国展の本展では見られないような作品だったので、良かった。

 

2013.04.28

アントニオ・ロペス

 
 

 
渋谷Bunkamuraに アントニオ・ロペス展 を見に行く。
 
今年最も楽しみにしていた展覧会だ。
 
見応えは十分。
「すばらしい」の一言だ。
 
作品は、朝、夕、その時間のその空気感に包まれていて、
作品を前にすると、「ワー」っとその空気に引き込まれる感覚だ。
 
特に、水平線の近くは分厚く塗り込まれていて、時間の蓄積を感じる。
 
ロペスは、風景を実際現地でしか描かない。
イーゼルをかつぎ、誰が見ていようとおかまいなしだ。
しかも、同じ季節の、同じ時間にしかだ。
 
だから、何年もかかり、なかなか完成しない。
 
「描きたい対象が見つかるまで描かない」のだと言う。
 
「いざ制作が始まると、対象との濃密な対話の時間が始まる。」
ロペスはその対話の時間を楽しんでいるようだ。
 
ロペスの作品はその対話の時間の蓄積そのもので、
完成させる気がないのでは?と思ってしまう。
 
そこに、人々を感動させる秘密があるような気がする。
 
作品が少ないので、日本で観られるのも今回限りだろうか。

 

2013.03.10

秋赤音

 
 
阿部泰介

 
秋赤音 の出現はアート界に衝撃を与えた。
 
今までの作家達と大きく違うのは、作品の発表の仕方だ。
彼女はニコニコ動画を使い、曲に乗せて絵を発表する。
ボーカロイドの曲で自身も歌う。
その人気、再生回数たるや凄まじい。
 
特に海外で人気が高く、フランス、香港でライブペインティングも行っている。
「ゆず」のアートワークも手がけ、
先月、画集が発売になった。
 
ご存じの通り、ニコニコ動画は再生回数に応じて広告収入が得られるので、
一本人気作が出ると、月に何十万と収入を得ることができる。
その収入で生活し、さらに新作を制作し続ける。
 
高校を卒業したばかりの彼女でも、アートで生計を立てることが可能なのだ。
 
若者達は彼女のようなネット上で活躍する作家を「絵師」と呼び、
ボーリストを「歌い手」と呼ぶ。
確かな実力を持つ、まさに昔でいう「職人」として崇めている。
 
秋赤音のような新たな活動のスタイルは、「誰でもアーティストになれる」という希望を与えている。

 

2013.02.23

損保ジャパン美術賞展FACE2013

 
 
損保ジャパン美術賞展FACE2013を見に行く。
 
全体的に作品のレバルが高く、新人の展覧会としては、きっと最高レベルのコンクールなのだろう。
絵画の「今」が詰まった展覧会で、一見の価値あり。
 
印象に残った作家(出品作ではないが)は、
 

阿部泰介

阿部泰介
日本的は表現内容で、描き込みがすごい。
怨念のような妖艶な雰囲気がただよう。
独特な浮遊感があり、絵の世界に引き込まれてしまう。
 
 
石川功

石川功
抽象のレベルも高かったが、中でもこの作家。
白地に赤い微生物のような形体が散在する。
かわいらしさすら感じる形には、生命の根源のようなものも感じた。

 

2013.01.03

ピーター・ブレイク

ピーター・ブレイク

ピーター・ブレイク

 
ピーター・ブレイク Peter Blake が好きだ。
 
1960年代に活躍したイギリスのポップ・アーティストの一人で、
ビートルズのジャケットを手がけたことでも有名である。
 
かなり影響を受けた。
空間を作っていくことに疑問を持っていた自分は、
平面的にコラージュしてゆくと絵が出来上がってことを知り、
夢中になって画面に切り抜きを貼付けた。
 
下絵をコラージュで作り、大画面に描きおこすという手法も彼に学んだ。
 
人物は平面的だが、表情がにくらしいほど魅力的。
背景への溶け込ませ方も彼に学ぶことが多い。
 
今だに色あせない魅力を久々に味わった。